夜、家へと帰る河原の道を、いつも通り白線に沿って歩いていると、前方から、ものすごいスピードで自転車が突っ込んで来た。
あわやというところで身をかわし自転車をよけた。
どうやら全くこっちが見えていなかったらしい。
こういう場合、よける瞬間に「危ねえだろボケ!」とか「どこ見てんだコラ!」とか、
とにかくそういう相手を罵倒する言葉が自然と口から出て来そうなものだが、その時自分の口から出て来た言葉は、
「危ないじゃないですか〜」
というものだった。
自分で口に出しながら「なんだそれ」と思った。「なんで敬語なんだよ」と。
それでも、遠ざかって行く自転車に向って今更ながら怒鳴りつけるのもしらける気がしたので、しばらく見送った後、また白線の上を歩いて帰った。
歩きながら「あの瞬間、それを相応の言葉が瞬時に出てこなかったのは何故なのだろう?」と考えた。
「ここ最近、精神的にへりくだってたんじゃねえのか?」
「尻尾が下がってたんじゃねえのか?」と反省した。