スーパーの魚売り場で冷凍秋刀魚を見た時、思わず
「サンマかあ。もう秋だなあ」
と、まだ夏も来ていないのに思ってしまう事がある。
それから「ん?」となって「いや、まだ5月だから」と自分をたしなめながらも1度グラッとなった季節感はなかなか元に戻らず、しばらく「そうかあ、もう秋なんだもんなあ」とフラフラ、スーパーを歩く事になる。
あの感覚は、ようするに「老い」なんだと思う。
スティーヴン・キングの短編『かわいい子馬』の中で、これと同じような錯覚に陥った農夫の話が出てくる。
1度しか読んでいないので話の筋はほとんど忘れてしまったけど、その農夫は確かその時の気持ちを「失望」と呼んでいた気がする。
別に冷凍秋刀魚を見て「もう秋が来た!」と勘違いした自分をことさら大げさに失望したりはしないけれど、以来そのような錯覚の事を「かわいい子馬現象」と呼ぶ事にしている。
先日とある人に「好きな俳優は誰ですか?」と聞くと、その人は
「そうですね。マツケンなんかは、わりと好きですね」と答えた。
「あ、マツケンねえ・・・」と返しながらも、その時頭の中を駆け巡っていたのは、馬に乗っている将軍と、サンバの方のマツケンだった。
これも「かわいい子馬現象」なのだろうか?